作成日:2019.08.23
キノコといえばシイタケのように傘がある形状をイメージされますが、ハナビラタケは淡い白色で花びらが咲き広がるようなサンゴのような独特な形状をしています。大きいものでは高さ30㎝、幅40㎝程度になり、1株で1キロ弱程度に成長します。
ハナビラタケはシャキシャキ、コリコリとした食感で、クセがなく、マツタケのようなキノコ独特の香りがします。煮ても形がくずれず、食感があるので、鍋の具材としてもおいしくいただけます。
また、カロリーが少なく、食物繊維もたっぷりふくまれたヘルシーな食材と言えます。
高級な薬膳鍋屋さんでも、ハナビラタケをはじめとした様々なキノコをメイン具材に揃えたメニューが人気となっています。
生食のハナビラタケは、流通量は少なく、デパ地下や自然食品店などでは見かけますが、一般のスーパーや小売店ではあまり見かけません。
人工栽培はできるものの大量に生産するのが難しく、また一般的なキノコと比較してとして高価であることが原因だと考えられます。
スーパーではあまり見かけないキノコ、ハナビラタケ。
「幻のきのこ」とも言われ、自生しているのを見つけるのは大変困難です。自生しているキノコを供してくれる料理屋も存在するのですが、その場所はなかなか教えてもらえないほど貴重なキノコです。
何故、自生しているハナビラタケを見つけることができないのか?
それはこのキノコが好む環境が特殊だからです。
よく標高1000m以上にハナビラタケは生息すると紹介されていますが、実際にはもっと低地でも見つけることはできるそうで、日陰の涼しい場所で、かつ、湿度の高いところに生息するため、結局、標高の高いところにそのような環境があるからです。
わたしたちがハナビラタケを見つけた場所も標高1900mの高地でした。モヤモヤのかかる高地であれば見つけることができるかもしれません。
稀にスーパーで販売されているハナビラタケは全てが人工栽培されたものになります。
ところがこのキノコ、人工栽培も簡単ではありません。実際に食べられる状態まで栽培するには準備を含めると約半年程度の時間を要し、かつ、栽培初期の段階で他の菌が混入すれば間違いなく全滅してしまうほど、デリケートなキノコです。
肉厚なハナビラタケは歯ごたえがあり、大変おいしいキノコで、海外では高級食材として利用されたりし、2016年の伊勢志摩サミットでも供せられました。
日本では20年程前に人工栽培に成功し、今では幾つかのキノコ業者が栽培を行っていますが、ある日突然、まったく栽培できないようになることがあります。原因は他の菌の混入です。
そのような状態になった場合、菌が相手なので、どこからどこに侵入したのか原因を突き止めるのは容易ではなく、いくつかの業者がハナビラタケの栽培を断念した話を聞いたことがあります。
そんなハナビラタケは約1億7000万年前に、シイタケ、ヒラタケやマッシュルームなどの系と枝分かれし、約1億1500万年前にサルノコシカケに似たカワラタケの種と分岐し、約9400万年前に日本にはおそらく存在しないpostia placentaというキノコと枝分かれし、存在しています。
人類とチンパンジーの枝分かれが約700万年前ですから、ハナビラタケは大昔から地球上に存在しているのです。この事実は後述する、わたしたちが行った産学官の共同研究「ITはなびらたけプロジェクト」の全ゲノム解析の結果として分かりました。
一般的に食用キノコ(マイタケ、シイタケ、なめこ、エノキタケなど)は白色腐朽菌に分類され広葉樹に寄生するものが多くみられます。
しかしハナビラタケ(Sparassis crispa)は担子菌門ハラタケ網タマチョレイタケ目に属し、ハナビラタケ科ハナビラタケ属に分類されるキノコの一種です。
セルロースなどを分解する褐色腐朽菌で、カラ松などの針葉樹に寄生します。
それでも美味しく食べられるハナビラタケは不思議な特徴をもつ存在だと思います。
もうひとつ特徴的なのはハナビラタケの形状です。キノコといえばシイタケのように傘がある形状をイメージされますが、ハナビラタケは淡い白色で花びらが咲き広がるようなサンゴのような独特な形状をしています。大きいものでは高さ30㎝、幅40㎝程度になり、1株で1キロ弱程度に成長します。
担子菌門
-ハラタケ網
-タマチョレイタケ目
-ハナビラタケ科
-ハナビラタケ
そしてハナビラタケの最大の特徴はβグルカンの含有量です。
キノコには多くのβグルカンが含まれていますが、ハナビラタケのβグルカン含有量は他のキノコと比較しても飛び抜けていて、全体の40%程度がβグルカンで出来ています。
キノコのβグルカンは細胞壁を形成する食物繊維で、ハナビラタケには健康食材として有名なアガリスクの3倍程度含まれています。そのおかげで鍋で煮ても柔らかくならず、シャキシャキコリコリとした触感が残るキノコなのです。
日本でハナビラタケが注目を集めたきっかけは、1999年、東京薬科大学名誉教授だった宿前利郎先生が行った研究発表によるところでした。
βグルカンには幾つかのタイプがあり、特にβグルカン1-3Dが免疫活性などを高めると様々な研究が行われてきましたが、ハナビラタケのβグルカンの殆どがこのタイプだったのです(ハナビラタケのβグルカンについては別で詳細を説明します)。
そんなハナビラタケですが、インタートレードが行った産学官の共同研究によれば、ゲノムサイズは39.0(mb)、遺伝子数は13,157、生合成遺伝子クラスターが30個も発見されました。
この分析を担当してもらった元産総研(現:九州産業大学教授)の木山先生によれば、生合成遺伝子は薬のもとになるもので画期的な発見だと説明されていました。
ハナビラタケの全ゲノムを特定したことにより、ハナビラタケの標準株を確立し、安定供給や有効成分の効果や量の品質管理が容易になります。
また、他にも共同研究で分かったことはハナビラタケにはエストロゲン様活性があったことです。
エストロゲン様活性とは、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンと似たような働きのことです。
植物性エストロゲンで有名なのは大豆イソフラボンなどがありますが、ハナビラタケのエストロゲン様活性は、通常エストロゲンの役割のひとつである細胞増殖活性が無いということが特徴です。
多くの食材にエストロゲン様活性が認められていますが、細胞増殖活性が無い食材は多くは存在していません。このようにエストロゲン様活性がありながら細胞増殖活性が無いことをサイレント型エストロゲンと呼ぶようにしました。